思考停止社会の現象として、大企業を中心に、世の中の「指摘くん」濃度が増加している気がする。指摘くんというのは、企画や開発会議の場において、コンプライアンスやメディアリスク、周辺の企業不祥事などの正論を盾に、クリエイティブの想像力を奪う社内クレーマーのことである。指摘くんは思考停止社会においても、とても元気な種族だ。不祥事のニュースが増えるほど、「そらみたことか」と得意げな顔をする。指摘くん対策のために、企業はポージングのためのデザインを増やすことになる。
メディアと身体性
ささいな企業不祥事を発端に「血祭り」をつくりあげる風潮を、センセーショナリズムをモットーとするメディアのせいにするのは簡単だ。しかしそれだけでは、郷原氏のいう思考停止社会の加速を説明することができない。
血祭り文化は、インターネット掲示板の「祭り」にも似ている。つまり思考がバーチャル化し、自らの身体性から遊離したときに、肉体感覚を失った言葉によるバッシングが行われる。指摘くんの増加も、ポージングのためのデザインも、社会全体での身体感覚の喪失に関係があるような気がする。メディアの幻想を誤認した時点で、自らの感覚での判断が出来なくなる、そこで「思考の外在化」が起こり、身体性が失われるのだと思う。メディアが豊富になった今、我々の思考は無意識に外在化しやすくなっているのではないだろうか。これは、逆説的に次のような現象を説明することにもつながる。
- 良きデザイナーに、「指摘くん」は居ない。