2008年5月9日金曜日

欠点を愛でるデザイン

 強み/弱み、メリット/デメリット、良い/悪いといった二面性は、誰にでも、どんなモノにもある。SWOT分析という有名なマーケティング・ツールでは、組織の内と外に潜むこうした二面性を書き出すことで、次の作戦を立てるのに役立つといわれている。組織でなくとも、新製品や新しい事業、あるいは例えば、SWOTをつかって自分のキャリアデザインを考える、なんていう事も可能だ。
 ここで気をつけなくてはいけないのは、良い/悪いといった二面性は、表裏一体である場合があるということだ。誰もが良いと思っているもののなかに実は沈黙の欠点が潜んでいたり、誰もが使い物にならないと思っているなかに光り輝く宝石が埋まっているかもしれない。


 その昔、ソニープラザで柄にも無く衝動買いしてしまった「MISS-TANAKA」という雑貨がある。安っぽいトンボのオモチャで、おなかの部分に吸盤が付いている。こいつを机の上に置いて、背中を押すと吸盤が机に吸い付くようになっている。このトンボの足は金属で出来ているため、吸盤を剥がす方向にテンションがかかり、吸盤が耐え切れずある程度まで剥がれると、しまいには「ビヨーン!」と勢いよく「MISS-TANAKA」が宙を舞うという仕掛けになっているのだ。
 「剥がれる吸盤」というのは、誰もが考える欠点だと思う。しかしMISS-TANAKA(いったい何なんでしょうね、このネーミング)は、これを思いもよらないギミックに仕立て上げ、立派なオモチャにしてしまった。「付かない接着剤」をポストイットという文具の一大ジャンルにしてしまった3Mの技術者も、きっと同じ発想を持っていたに違いない。
 欠点、デメリット、弱みに直面した際に、誰もがまず、それを克服しようとする。しかしその前に、その欠点をよく観察し、何か別の用途を考えてみることで、新しいアイディアが生まれてくる可能性があるのだ。デザイン思考は、弱みを強みに変え、デメリットをメリットに転換する魔力を秘めているのだと思う。