2011年1月20日木曜日

心理学者との対話(その7)~参考文献など

正月に読んだ本を元になんなく書いてみた今回のエッセイ、主観的すぎたのか長文すぎたのか、アクセスは下がる一方でした(笑)。
面白かった人も面白くなかった人も、以下は良本ばかりなので立ち読みしてみてください。



幻想の未来/文化への不満 は、言わずとしれた精神分析学者のフロイトが「文明」や「文明」について論じた古典らしい。学術的にどのように評価されているのかはよく知らない。読んでいくと、乱暴なまでに人間の原始的な側面があぶり出されて冷や汗もの。文化・文明において何らかの目的を持った創造的行為を行う人は、読んでおいて損は無いと思う。ちなみに人はなぜ戦争をするのか エロスとタナトスでは、なんとあのアインシュタインとフロイトとの対話が繰り広げられる。アインシュタインは平和主義者だったのだが、自らの理論が原子爆弾を生んでしまうという矛盾に悩んでいたのかもしれない。究極の科学者と精神分析学者によって、科学と倫理と人間心理の狭間を行ったり来たりさせられるジェットコースターのような本。ただし、文字が小さくて長いので時間のある人におすすめ。ひたすら脳をかき回されます。


上記二冊は内容が強烈すぎて、読書慣れしていない人が読むとヘコむかもしれない。そんなときはフロムの愛するということがおすすめ。フロイトの考えを引き継ぎながら、より社会的な動物として生きてゆくための「愛」という観念の重要性について説いた本。解毒剤です。
ちなみに心理学の単位をとったことが無い人は、我妻先生の社会心理学入門〈上〉 (講談社学術文庫)が、ありえないほどわかりやすい。大学の講義なんて聞かなくても良いかもしれないくらい。上下巻セットでどうぞ。フロイトはもちろん、ゲシュタルト心理学や対人関係の心理学は、実はけっこうプロダクトデザインや情報デザインと関連が深いです。


ラ・ロシュフコー箴言集 (岩波文庫)は、あらゆる有名思想家の逆鱗に触れるのを得意としたロシュフコーの集大成。読むとわかるが、権人間の高慢から美徳まで、ありとあらゆる行為を野次りながら、面白おかしく散文にしている。自意識やナルシシズムに関する話しも多いので、デザイナーが読んでも面白いかも。有名なパスカルの「パンセ」(人間は考える葦である、とか)よりも刺激的。ズキっとさせられるお気に入りの文書が見つかりますように。


現代デザインについて深く考察している本は貴重だと思う。一番良かったのは嶋田厚さんのデザインの哲学 (1978年) (講談社学術文庫)だが、これはもう絶版になっているから中古でどうぞ。もくじだけ示しておきます。

第一章:機械と有機体
  • インダストリアル・エイジの開幕
  • 人間/自然/有機体
  • 聖なる秩序
  • 機能主義の源流
第二章:芸術と社会
  • デザインの先駆者
  • ラスキンからモリスへ
  • 芸術の大地
  • 機械の意味
  • モリスの社会主義
第三章:模写と構成
  • 象徴派の源流
  • 音楽への憧れ
  • 抽象芸術の意識的創造
  • 近代絵画の開幕
  • 模写への疑惑
  • 抽象への飛躍
第四章:芸術を超えて
  • 伝統的リアリティからの決別
  • 未来派の歴史的使命
  • 革命と構成主義
  • 建築に向う絵画
  • 近代デザインの確立
  • バウハウス
第五章:環境の変貌
  • 大衆社会の出現
  • インダストリアル・デザイナーの登場
  • 自由放任の終焉
  • 打ち寄せる技術革命の大潮
  • シンボルの氾濫
  • 虚構としての生産哲学
第六章:デザインの課題
  • 計画時代のデザイン
  • 具体的世界への反省
  • 二つの環境
  • 世界の共有
  • 「参加」を求めて
  • 具体的世界の護民官
これだけみても明らかなように、良くあるようなデザイン歴史本ではない。いったいデザインという活動がどういう動機で始まったのか、芸術との関係、モダンデザインがどのように成功し、社会変化とともにねじれ、失敗し、そして我々がそこから学ぶべきことは何か、ということを考えさせられる、いわば宿題をいっぱい突きつけられる本。後半はサービスデザイン、ソーシャルデザインや人々のインクルージョンなど、いわばデザインの現代的な可能性を想像させる文も散見され、これが昭和53年に書かれたことが驚き。
似たような本に現代デザインを学ぶ人のためにというのがあるが、これは色々な人が書いているのであんまりまとまりが無い気がする。

もっともっとパンチの効いたデザイン批判を読みたい人は、柏木先生のモダンデザイン批判をどうぞ。デザインが大好きでしょうがない人が、デザインについて考えに考え、調べに調べた結果、それが及ぼした人間社会への影響、文化への大罪に失望してしまった、でもやっぱりデザイン好きだなぁ、どうしようどうしよう。という感じの代物で、個人的にはすっごく共感。ある意味で、20世紀までのデザインについて一区切りするための本。ただし読んでも結論は何も出てこないので、ちょっとした「たしなみ」だと思えば良い。
川崎和夫先生の「デザイン救世論(PDFが別ウィンドウで開きます)」にある、
今のデザインは「売る」ための手段、つまり欲望の刺激. 装置になり果てています。
というセンスのあるナイスなセンテンスも、20世紀的なデザインに嫌気がさしている徴候をうまく言い当てていると思う。逆に、若い人にはどれも当たり前すぎるのかもしれない。そのあたりも議論してみたいところ。

あと、マニアックなのが良い人は、デザイン・映像の造形心理あたりはいかがでしょう。人気が無いので値下がりしていて、今見たら「1円」だった。後半にフロイトの芸術感とデザインの関係などが論じられていて面白かったです。