いつの間にか、目の前に美しいリンゴがあった。
「それで貴様は、このリンゴをどうしたいのだ?」
フランツ・カフカのようなギョロ眼の外国人は
威圧的に質問してきた。
「絵に描きたいです」
とだけ答えた。
彼はその答えに不満そうだったので
私はさらにこう付け加えた。
「色々な角度から、色々な色をつかって」
すると彼は、右の唇だけでニヤリと笑うやいなや
<バクン!>
とそのリンゴを、丸喰いしてしまった。
リンゴはガラス質の作りものだったらしく
ギョロ眼の口はジャリジャリと嫌な音をたてながら
こんな言葉を吐き捨てた。
「まいったか この矮小ジャップめ!
おまえらが あれこれ絵空事をしている間に
とっくにこんな事になっているのだ!
家電から音楽から書籍まで全てだ」
そんな夢をみてから私は
リンゴに関係ある製品だけは
買わないようにしてきた。
特に表面がガラス質のものは苦手だ。