2009年5月16日土曜日

進化論的に見るデザイン思考(その3)

 デザインの思考は、山登りに似ているということを書いた。それは、「山登り法」に示されるような近視眼的でカッコワルイやり方ではない。例えるなら、それは生物の進化のようなものだと思う。

遺伝的アルゴリズム
 もう30年以上も前に発明された遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)という、コンピュータによる問題発見のための探索手法がある。その名の通り、遺伝子によって複雑な進化を遂げる生命の仕組みを模倣し、コンピュータを使った数理計画、制御、シミュレーションなど様々な分野に応用しようとしたものだ。
 生物の進化の仕組みを、コンピュータでも実装できる程度にまで極度に単純化したその考え方は非常にエレガントだし、進化の仕組み自体を理解するのにも役立つ。どのくらい単純化しているのかというと、なんと進化をたったの3段階で表現しているのだ。簡単なので、ぜひ覚えて欲しい。

1.自然淘汰
 「淘汰」を英語で書くとnatural selection、つまり「自然(による)選択」となるところが、いかにも西洋的な価値観が反映されていて面白い。それは置いといて、この自然淘汰とは、数あるアイディアの中から、ダメなアイディアを消去し、可能性のあるアイディアを抽出する作業を意味する。これによって、脳の中で処理できるアイディアのチャンク数を適切な数に押さえる事ができる。
 もしアイディアの淘汰が行われなければ、頭の中は無限のくだらないアイディアで埋め尽くされ、肝心の頂上を目指すという創造的行為を行うことができなくなってしまう。

 淘汰を行う上で最も重要なことは、そのアイディアが良いか悪いかを決定する評価(evaluation)のプロセスである。コンピュータに実装するときは、このプロセスは評価関数(fitness function)と呼ばれる数式を使って自動的に計算してしまうわけだけれども、デザイナーの脳の中でのアイディアの評価は、主観的・客観的要素、環境要因を含めた様々なファクターが絡む。
 良い種を良いものとして、悪い種を悪いものとして認識する作業が、デザイン思考においていかに重要かがわかると思う。しかも、その種が「他のデザイナーではなく、自分の考えたアイディア」だったりしても、悪いものは悪いとしてバッサリと切り捨て、例え他人であっても、子供、学生であっても、あるいはWebで見てパクッてきたアイディアであっても、良いものは良いと認める客観性が必要なのだと思う。それはまるで、評価関数という数式に基づいて、淡々と個体の選別を行うコンピュータのような、ドライな客観性なのではないだろうか。

(つづく)