山に登っていると、どこが頂上だかわからなくなる。そんな経験は無いだろうか?うっそうとした林によって視界はさえぎられ、丘陵はゴツゴツと複雑な形をしていて、自分の立ち位置から一見しただけでは、頂上の位置が把握できない。
もし、地図という「人工的な道筋を抽象化して示す道具」が無ければ、あるいはまた、その道さえも無ければ、我々は頂上を目指すためにとりあえずランダムに勾配を登り、少し見晴らしの良いところから周囲を見定め、また少し降り、そして少し登り、といったことを繰り返しながら、より高い場所を目指すしか無いだろう。
すると、山を登ることは、山を降りる事よりよっぽど難しい事だという事実に気づかされる。現に登山家たちが遭難した場合は、頂上を目指すことよりも、山を降りる事を優先するという。ゴツゴツとした複雑な形状の山(=解空間)を、人間というごく小さな存在が歩き回って頂上(=最適解)を導き出すのは、とても難しいことだ。
これは、デザイン思考にも通じていると思う。クライアントから与えられた課題は、山脈のようなものなのではないだろうか。山脈の上には雲がかかっていて、麓から見取ることは出来ない。いったいどんな素晴らしい頂上があるのかさえ、デザイナーは知らない。これから先人たちの残した道しるべ(=ケーススタディー)を頼りにして、ランダムウォークを繰り返すのみである。
(つづく)