2009年5月19日火曜日

進化論的に見るデザイン思考(その5)

3.突然変位
 最後の話題は、突然変異(mutation)だ。これは主に、「局所最適解」から脱出するのに用いる。デザインのスタディを行っていると、ある答えにアイディアが収束しつつある事に気がつく。ダ・ヴィンチや「天才博士」であれば、それが最終的な最適解、すなわち「頂上」であるか否かは判断が付くのかもしれない。しかし多くの人は、それに気がつかないだろう。
 デザイナーが「これが最高だ!」と思って終着したアイディア、しかし「これが最高だ!」と思ったのは、「これ」の近傍のアイディアと比べて良かっただけのことであって、もっととんでも無いところにより高い頂上が存在していた。こんな、悔しい思いをした経験のあるデザイナーも多いのではないだろうか。
 突然変異は、意図的にアイディアに対して「とっぴな変革」をもたらす。例えば高級と安価、無機と有機、動くものと動かないもの。あるいは全くベクトルの違う異質なものを強制的に注入する。
 突然変異を阻害する要因は、デザイナーの心の内にあるようにも思う。まったくとんでもないモノを思いつくのは、そもそもデザイナーの気質からしてたやすい事だと思う。
 しかし、納期が近づき、アイディアも収束しつつあり、何となく周囲に「コンセンサスの空気」が流れているなかで突然変異という爆弾を破裂させる勇気、そしてそれにも増して、その突然変異を受け入れるチームとしての勇気の方が必要とされるのかもしれない。

おわりに
 5回にわたって、デザイン思考のプロセスを進化論に当てはめて整理してみました。デザイン思考そのものを整理する事に意味があるかどうかはわかりませんが、少なくとも、現在うまくいっているデザインファームというのはこの思考過程を客観的に理解し、自分達の生産性を上げるために戦略的に活用しているような気がしています。