2010年4月19日月曜日

デザイナーのファッションセンスについて。

5yearsPAST<FUTURE


世の中のたいていの人が誤解しているけれど、「デザイナーは決してオシャレではない」。これからデザイナーと恋に落ちたいと思っている人のためにリストアップをしておくと、
  1. Web、パッケージ、グラフィック系の人はオシャレである。
  2. 建築、インテリア系の人はオシャレであることを嫌がって、真っ黒か真っ白の服を着ている。
  3. プロダクト、インタフェース、情報系の人は非オシャレである。
  4. テキスタイル、ファッション系は、ひどい。
だいたいこんな感じだ。
オシャレである事というのは、パタパタと変わるモード、すなわち常に他人との差異を生み出し、目を惹く組み合わせを追い求めることである。Webやパッケージ、グラフィックデザインは、どこかそれに通じる匂いがする。
建築系の人は、建造物の特性上、モードの進化が桁違いに遅い。だからいわゆるファッションは、認識はするものの、自分とは波長の違う世界だと思っている。だからより伝統的で普遍的な服、真っ黒か真っ白の服を着ている。彼らが多かれ少なかれ伝統(モダニズム)に縛られてている点も関係しているのだろうか。
かつてのプロダクトデザインは、体中が泥だらけ、粉だらけ、グラスウールだらけになる分野だったので、そもそもファッションとは関係がない。また、今はコンセプト、シナリオ、ユースケースを考える分野になりつつあり、プロダクトそのものの彫刻的な価値ではなく、プロダクトを通じた見えないユーザーとのインタラクション、デザイナーの指先の、さらにその先をデザインしている。すっかり定着したアフォーダンス、無意識、ストーリーデザインといった手法は、形のないものを相手にするインタフェースデザインや情報デザインとの親和性が高い。そこでは色や造形はあまり興味の対象とならないし、どちらかというとケガれたものだと思われやすい。オシャレの記号を知っていても、それを避けているのである。だからみんなダサイのではなくて、「非オシャレ」である。
テキスタイルやファッション系のデザイナーは、モードの「その先」を見つけ出すのが役目なので、当然のことながら現代のモードが「オシャレ」だと思っている我々一般人からみると、そのファッションは奇異なものに写る。だから、普通のオシャレ感覚の人には理解できない。


デザイナーのファッションを褒める時の注意点
  1. Web、パッケージ、グラフィック系の人に対しては、素直に「オシャレですね」と言えばよい。決して具体的な取り合わせについて説明的な賞賛を加えてはならない。それはヤボなことである。
  2. 建築、インテリア系の人には、「白(または黒)がお似合いですね」と言う。もしそれが高価そうな物であったなら、その生地を褒める。
  3. プロダクト、インタフェース、情報系の人に対しては、Tシャツの図案を賞賛すること。またアクセサリー、靴の構造、手袋の縫い方、自動車、時計や文房具の機構などメカニカルなものに注目するのも良い。
  4. テキスタイル、ファッション系は見極めが難しい。テキスタイル系は材料屋さんであってファッションそのものの取り合わせには興味が無い場合がある。下手に褒めると「今日は、全部ユニクロですけど?私の作ったマフラー以外はね」などと墓穴を掘りかねない。ファッション系も多義に渡るし、よく勉強していないと追いつけないので下手なことは言えない。無難なところで、珍しいものを見たら「それはご自分で作られたのですか?」「ご自分で染められたのですか?」くらいにとどめておくこと。

ファッションとは何か?

一瞥して着ている人間の人となりを示す残酷なメディア、それがファッションである。ファッションはモードによって規定される。モードには意味がなく、それは単なる「記号」でしかない。

  • 「そしてデルタの子供はカーキーの服を着ている。ああ、いやだ、デルタの子供たちなんかとは遊びたくない。それにエプシロンときたらもっとひどい。とても馬鹿で読み書きもできやしない。おまけに黒の服を着ている。ほんとにいやな色だ。ベータに生まれてきて、ほんとによかった」
  • 「アルファの子供たちはねずみ色の服を着ている。彼らはひどく利口なので、われわれよりずっと猛烈に勉強する。自分はベータに生まれてきてとてもよかった、だってそれほど勉強せずにすむのだから。それにまた、われわれの方がガンマやデルタよるはずっといい。ガンマは馬鹿だ。彼らはみな緑の服を着ている、そしてデルタの子供たちはカーキーの服を着ている。ああ、いやだ、デルタの子供たちとは遊びたくない。それにエプシロンときたらもっとひどい。とても馬鹿で。。。」
(ハックスリー、すばらしい新世界)

私たちは記号であることを薄々知っていながら、その記号に一喜一憂して、その誘惑に勝つことができない。その記号を生み出すのはデザイナーであり、デザイナー自身もファッションという実にわかりやすい記号に縛られている。
さて、今日はどんな服を着ようか?真っ黒でいいかな。