2010年4月1日木曜日

デザイン政策について~小国クラコウジアからの手紙

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a9/Alexandria_egypt.jpg

石垣さん、こんにちは、デザイナーのナヴォルスキーです。いつもブログを読んでいます。
今日はユーラシアの小国クラコウジア共和国(Krakozhia)のデザイン政策について、ご返信いたします。

以前お伝えした通り、我々の国では、デザイナーというのはとても地位が高く、産業の頂点に位置するといっても過言ではありません。
先進国でいう弁護士、医師、一級建築士といった士業と同じように、デザイナーになるための国家認定制度があります。国家資格を持つ弁護士、医者やデザイナーの給料は国会議員と同じであり、国が最低年収4000万シリング(約1800万円)を保障しています。デザイナーは、国家元首の次に給料の良い職業です。

あなたがデザイナーになるためには、4年に1回だけ実施されるデザイナー検定試験をパスしなくてはなりません。試験では、芸術的資質はもちろんのこと、デザイナーとして必要とされる様々な社会的役割についての面談がなされます。なお検定試験の実施においては、あらゆる身体障がい者、また外国人や高齢者が受験できるよう、デザイン元老院(後述)による特別の配慮がなされます。
これまでの試問内容を抜粋すると、たとえばデザインの発展がもたらした兵器や抗争の歴史、プロダクトデザインにおける素材物性と地球環境についての具体的な問題、ブランディング・広告・グラフィックデザインにおけるプロパガンダ論などです。一昨年は、貧困層に対するデザインマネジメントとイノベーション及びリスクについて出題されました。
最近クラコウジアでは、経験豊かで優秀な外国人、特に日本人のデザイナーを積極的に受け入れており、日本でのデザイン経験が一定以上あれば、実技と筆記試験が免除されます。

国営企業や外資系企業は、1つの事業部に1人以上の管理職デザイナーを置かなくてはなりません。それが出来ない場合は、デザイナーによる提案と意志決定プロセスを外部のデザイン事務所に発注することになります。行政の事業を行う際にも、様々なデザイン・アセスメントが義務づけられています。ですからこの国には、1000を越える独立したデザイン事務所があり、商品企画の段階から生産、そしてメンテナンスや広告といったすべての段階において、デザイナーが非常に重要な提案権と意志決定権を持っています。この国の産業は弱いのですが、対外輸出の大半はスイスの国連機関、北欧系の銀行、イギリスの保険会社、BRICs諸国へのデザイン役務(主にコンサルテーション)によって賄われており、10名以下の小規模なデザイン事務所であっても年間売り上げの中央値は250億シリング(約113億円)程度です。GDPの30%を占めるデザイン産業の育成は、我が国の5大立法政策である「デザイン振興と倫理及び処罰に関する法律」(クラコウジア共和国指令GSK501号)によって一体的に促進されています。

デザイナーの権利が大きい分、当然ながらその名誉を傷つけた場合の処罰も厳しいです。13年前に、ある海外製の家庭用ゲーム機器30万個に有害物質が混入してい た事件では、クラコウジア人がデザインを担当しており、彼はデザイン元老院の特別裁判所から懲役821年を言い渡されました。この判決の算定根拠は「30万個÷365日=821年」であり、判決では共和国憲法前文にある「毎日を正義とデザインのために(diariamente voy Justiça e um Gskas)」の文言が参照されました。
デザイナーはみんなの憧れなので、国家資格を持っていないのに神聖なるデザイナー(Gskas)を名乗り、不法にデザインまがいの行為を行う犯罪者が後を絶ちません。そういう人はだいたい国外追放処分となり、中には海外で「デザイナー」として活躍するそうです。クラコウジアでは一般人の海外渡航が禁止されているので、こうやって海外に出て「デザイナー」になる人が居て、問題になっています。しかもそういう人に限って、有名になってしまうのです!
もちろんデザイナーになれなかった人にも優秀な人が沢山います。彼らはアーティストやクリエイター(Igskas)と呼ばれ、デザイナーの元で良い仕事をしています。

さて、クラコウジア・デザイン元老院(Krakozhia Gska Bacholonia、通称KGB)についてご説明したいと思います。デザイン元老院はデザイン司法を担うと共に、行政政策や立法に対して大変な威厳を持っています。これは日本でいうところの経済団体や医師会のようなものでしょうか?
ここのメンバーになることは大変な名誉であり、デザイナー出身の国会議員や官僚も少なくありません。
都市計画や公共建築についても、会員デザイナーによるオープンで活発な議論と批判が沢山繰り返されており、しばしば新聞(といっても国営のクラコウジア・ニュースしかありません)のトップ記事を飾ります。国民(といっても東京の人口より少ないのですが)はみんな、デザインに対してとても興味があり、デザイナーはいつでも子どもたちの憧れの職業トップです。デザインについての授業は、公式には小学校から行われますが、私塾や幼稚園でもデザインを教えることが多いです。クラコウジア出身の教育学者であるマリア・モンテソーリ式の感覚教育や、同じくクラコウジア貴族家系であるブルーノ・ムナーリ氏のワークショップ手法が良く知られています。

さて、理由はよくわかりませんが、この国の人たちは、アメリカ、イタリアのデザインには興味がほとんど無いようです。日本のデザイナーはとても注目されていますが、外交上の交流が無いこともあり、情報があまり入ってきません。この理由については次回、また考えてみます。
デザインに興味があるなら、クラコウジアに遊びに来てください。それでは。