8月に携帯型プロジェクターの話しをしたと思ったら、もうこんな完成度のプロトタイプができていた。今回は、このわくわくするような小型プロジェクターを題材に、デザインの退化と進化について考えたい。
退化するデザイン
音楽プレイヤーの音質は、退化しつづけてきた。多くのオーディオマニアが言うように、アナログLPレコードというものが、市民メディアにおける音質の頂点を極めていたとする。しかしそれは、流通と保管の容易性という別の要因によって市場を圧巻したコンパクトディスクによって、市場から駆逐されてしまった。利用者はハイエンドな音質よりも、「容易性のデザイン」に迎合したといえる。これは、BETA MAXからVHSへの移行が、より標準的で互換性の高いものを欲しがる利用者の賢い選択によってなされてきたのに似ている。このときも、実は画質は低下していた。
同じ流れを加速したのがiPodだ。MPEG-2 AACという「より粗悪だが保管効率の良い」方式を採用することで、携帯音楽プレイヤーはコンパクトでスタイリッシュな造形が可能となり、現在の不動の地位を確立した。地上波のアナログがデジタルになって、みんな「画質がいい!」と喜んでいるけれど、あれは解像度が高いだけの話しであって、H.264と呼ばれる動画圧縮のせいでとてもおかしな絵を見ている。良く「すばやい動きをするサッカー選手の顔がお化けのように見える」ことがあるが、あれは動画圧縮技術の限界からくるものだ。
技術の幻想
世の中には「良い製品は良い技術からつくられる」、という迷信がある。この「良い技術」というのが、機能性(スペック)を追求するものだと、結局は利用者に受け入れられることが無い。LPからCDに移行しながら、なおその規格の中で最大の音質を求めようとするSA-CD(Super audio CD)やS-VHS規格などをみると、わかりやすい。ユーザはとっくに「音質や画質ではなく、携帯性や利便性を選択している」のだ。
(続く)