私の母親は、一度来たお客さんの「利き手」をぜったいに忘れない、という特技を持っている。お菓子や食事をお出しするときの箸・フォークの置き方を、右利きと左利きの人でちゃんと分けて配膳するのだ。右利きの自分はあまり意識していなかったのだけれど、中学生のときに、家に遊びに来た左利きの友達がそれに気づいて、いたく感動していた。
経験価値マネジメント
2000年以降に流行ったマーケティングの潮流に、経験価値マネジメントというコトバがある。例えば、米国の50%以上の銀行がCCEO(Chief Customer Experience Officer)を設置しているだとか、Google, Yahoo, eBay, SAP, Bank of America, Wells Fargoなどの超有名企業が、経験価値に関する専門組織を設定しているらしい。
経験価値とは、その企業と顧客との様々なタッチポイントを通じて得られる「経験」を着目することで、企業価値を高めていこうとする手法だ。これまで経験則によってなされてきたホスピタリティ(hospitality)を、より戦略的に、より定量的にマネジメントするのが、その主な狙いである。この「ホスピタリティ」は、日本語で「おもてなし」に近いニュアンスなのではないかと思う。
「おもてなし」はデザイン可能か
「おもてなし」というと、もてなす側の内面にある「察し」や「美意識」が昇華した芸術的な身体表現だというイメージが強い。利き手を覚えるという母の特技は、まぎれもない「おもてなし」の手法である。
一方で、例えば顧客の利き手をデータベースに登録し、マニュアルに基づいて配膳のやり方を変えるということをやっているホテルも、実際に存在する。
両者は、「心」を伴っているかどうかという点では全く異なるけれども、配膳のやり方が変わったという「現象」をとらえれば全く同じである。次回は、もてなしの「心」と「現象」という点に注意しながら、経験価値を高める企業戦略についてデザインの視点から考えてみたい。
2008年10月22日水曜日
ホスピタリティのデザイン(その1)~母親の気配りと経験価値
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